「どうしたいか、だけでいいんだよ」
これは2014年公開『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』の中の有名なセリフ(ちょうどこの時期にリバイバル上映をしていたので引用したくなった)
自分を抑えて生きている社会人にとても刺さるセリフなのですが、作品内では具体的な方法(How)が描かれないので、どこか根性論というか綺麗事のようにも感じていたりします。
そして時代が流れ、2024年にリリースされた『学園アイドルマスター』で、この「どうしたいか」だけに特化した人物として篠澤広(しのさわひろ)という生徒が登場しました。
「今まで勉学で上手くいきすぎて人生つまらなかったので自分に向いてないけど興味のあるアイドルの道にやってきました。歩くだけで倒れます。」
ど…どどど…どうやって!?!?
(アイドルになろうって言うんだ!?)
とは言いつつ、アイドルとしての突出した魅力があって、そこを伸ばして成功させるみたいな定番パターンなのだろうと思っていましたが、そんなこともなく得意分野の勉学面は完全放棄。さらに少しでも上手くいくと絶望してテンションが下がる。ほんとうにアイドルやりたいの?
こんなのアイドルとしてやっていけるわけがない…。というかやっていくつもりがないのかもしれない…。でも、それでいいのだ。
篠澤広にとって、アイドルを目指すこと(アイドルになるための活動)そのものが目的であって、言わば趣味なんだと言う。
「アイドルは趣味」という発言は今までのアイマス環境を破壊した。
今までのアイドルは芸能事務所所属ということもあり、成り行きでスカウトされた子だとしてもプロとしてアイドルでの成功を目指すというストーリーだった。
けれど、結果を求めないアイドル活動を楽しむ篠澤広も、そんな彼女にあてられて自分も趣味でプロデュースすると言い出す篠澤Pもなかなかにクレイジー極まっている。今までのアイマスだったらPと候補生2人まとめて契約終了でもおかしくない展開なのに学園が舞台ならできる。すごい。学園アイドルマスターすごい。
そしてもうひとつ、衝撃を受けた(脳を破壊された)理由として、篠澤広は趣味と言えども純粋に全力で楽しんでいるという事実がある。
私は趣味として参加しているはずのライブ中にも週明けの仕事のことが頭をよぎって苦しくなることがあるし、ゲームをやっていても「こんなことをやっていていいのかな…」と熱中できない体になってしまった。悲しい。
そうでなくても、趣味でも上達できなかったらつまらなく感じてしまうだろうし、趣味でお金を稼げないかな~とか考えてしまうので純粋に楽しめている自信は全くない。
そんな中で篠澤広が趣味に没頭できている理由としては、
- 今までがつまらなすぎた反動
- いざとなれば生活面はなんとでもなる
- 死の恐怖よりも退屈が嫌い
- まだ学生だしね
のどれか、もしくは複合的なものだろうか。
凡人がこの領域まで趣味に本気を出せるようになるには500兆円を支給してもらうしかないと思うので、趣味を全力で楽しんでいるだけでも眩しいし羨ましい。ここまで来ると「趣味は夢に劣らぬ力をくれるもの」という篠澤Pの発言も頷ける。
こうしてプレイヤー視点としてコミュを見ていると、篠澤広が上手く言っていないのにすごく楽しそうにしている日常の光景はとても輝いて見えるし崇拝にも値する。これはもうアイドルなんだと思うし神なのかもしれない。
彼女は本気で、全力で、アイドル活動を楽しんでいる。向いていないことを頑張ることで新鮮さや面白さを見出している篠澤広は、私にとっても刺激的な存在となった。
けれど、ゲーム内ではそういった裏事情を全く外に伝えずにこの先も身一つでアイドル活動を続けていくのだとしたら、やっぱりそれは趣味なんでしょうね。
そしてもうひとつ、篠澤広を見て思ったこと、趣味とは今を楽しむことであると。
「未来は今の延長だ。だからこそ、今を大切に、悔いのないように」
結局『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』のセリフに戻ってきちゃいました…。